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よくわかる北朝鮮旅行2016年5月 by 神谷奏六

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北朝鮮の歴史認識「国連軍16カ国対中朝2カ国」はねつ造か?洗脳か?いや一理あるのか?(1)北朝鮮の歴史認識

北朝鮮国内で語られる朝鮮戦争の歴史は、「北朝鮮中国の2カ国が国連軍16カ国と戦った」とされていて、北朝鮮側にソ連が入っていません。しかし、今では朝鮮戦争の参戦国にソ連が入っていたことは明らかになっています。


北朝鮮政府は自国民に対して、ソ連が入っていた事実を隠しているのか?それとも、本当にソ連は参戦しておらず、「国連軍に対して中国と北朝鮮の2カ国で戦ったのか?」これを検証します。

まずは、北朝鮮側の歴史認識の検証です。


北朝鮮旅行に行った際に我々についた現地ガイドいわく、「国連軍に対して中国と朝鮮の2カ国で戦った」と話していました。

明らかに「大量の国連軍に対して、2カ国に攻めてくるなんてひどすぎる。それに対して偉大な金日成主席率いる朝鮮人民はがんばって戦った。」というニュアンスで、そう言っていました。

北朝鮮で最大の朝鮮戦争博物館である祖国解放戦争勝利記念館の説明も同様です。
ちなみにこの博物館で、「ソ連」という単語は一度も出てきませんでした。


北朝鮮政府発行の著書「朝鮮通史<下>」には、以下のように記述があります。

以下、著書より引用
英雄的人民軍は後退をはじめて二ケ月たらずのあいだに、強力な反撃戦に移るに足る兵力の再編を終えた。

そして1950年10月25日には、兄弟的中国人民が「抗米援朝保家衛国」の旗のもとに志願軍を朝鮮戦線に派遣して、朝鮮人民の戦いを血潮を流して助けた。

中国人民志願軍の参戦は、歴史的に結ばれた朝中両国人民の伝統的友誼(ゆうぎ)の発露であり、反帝民族解放闘争にたいする国際主義的支援の実践的模範であった。
以上、引用

中国の参戦は認めており、しかも好意的に捉えられています。

この著書ではそこから中国とソ連の話は一度も出ずに、34ページを割いて、いかに金日成が素晴らしい指導をしたか、朝鮮人民が勇敢に戦ったか、いかにアメリカのやったことが野蛮だったかを中心に記載されています。

著書と、博物館での説明と、北朝鮮人の現地ガイドの話を総合して、北朝鮮の歴史認識は「ソ連は朝鮮戦争に参加していない。」というものだと判断します。


さて、国連軍の国数に対する歴史認識はどうか。

同著では停戦協定について以下のように記載があります。

以下、引用
朝鮮における停戦の実現は、祖国の自由と独立、人民民主主義制度を守るために、アメリカ帝国主義を先頭とする16カ国武力交渉者と売国奴李承晩(イスンマン)一味に抗して英雄的に戦った朝鮮人民と人民軍の偉大な歴史的勝利、アメリカ帝国主義侵略者の敗北を意味した。
以上、引用

16カ国と記載されています。


なお、北朝鮮の現地ガイドはよく「15カ国対2カ国」という説明をします。

なぜか、北朝鮮政府発行の歴史書では1カ国増えています。
増えた敵国の1カ国がどこなのかは明確な記載がないため、これを知るには自分で調べないといけません。

今回の板門店に行った際に、板門店の共同警備区域内の軍事境界線上に建つ軍事停戦委員会本会議場に、国連軍の旗がパネルに入って掲示されていました。

国連の旗以外は、順番に韓国、アメリカ、オーストラリア、ベルギー、カナダ、コロンビア、デンマーク、フランス、ギリシャ、イタリア、オランダ、ノルウェー、フィリピン、南アフリカ、タイ、トルコ、イギリスです。

これは韓国、アメリカを除いて16カ国です。

この軍事停戦委員会本会議場は、朝鮮戦争の停戦を経て、朝鮮戦争後の韓国との話し合いに北朝鮮も何度も参加しているところなので、これはこれで北朝鮮も認めている国数だと思われます。


ところが、北朝鮮政府発行の「朝鮮通史<下>」では「アメリカ帝国主義を先頭とする16カ国武力交渉者と売国奴李承晩(イスンマン)一味に抗して」とあるので、この板門店のパネルの「韓国・アメリカを除いて16カ国」と辻褄があいません。

この板門店のパネルは、現在停戦協議をする南側の主体者である国連軍を指していると思われるので、朝鮮戦争に参加した(と北朝鮮が認識している)「アメリカ帝国主義を先頭とした16カ国」は別の国を指しているものと判断します。

(ちなみに、板門店のパネルに掲示されている国旗についてですが、韓国アメリカを除いて14カ国しかない古いパネルの写真がネットに落ちてます。イタリアと南アフリカが昔はここにはなかったようです。今のパネルでは韓国が先頭ですが、古いパネルではアメリカ国旗が先頭です。詳細は不明です。)


では、北朝鮮の歴史認識における「アメリカ帝国主義を先頭とする16カ国」の16カ国とはどの国なのか。

小学館発行の日本大百科全書(ニッポニカ)の「朝鮮戦争」の項目には、以下のように記載があります。

以下、引用
国連軍に実戦部隊を派遣した西側16か国は以下のとおり。アメリカ、イギリス、フランス、ベルギー、オランダ、ルクセンブルク、ギリシア、トルコ、オーストラリア、ニュージーランド、カナダ、コロンビア、タイ、フィリピン、エチオピアおよび南アフリカ連邦。このほかインド、イタリア、デンマーク、ノルウェーおよびスウェーデンの五か国が医療部隊ないし医療施設を国連軍に提供した。
以上、引用

この「実戦部隊を派遣した西側16カ国」はアメリカを含む16カ国なので、これだと辻褄があいます。


北朝鮮の歴史認識をまとめます。

・国連軍はアメリカを含む16カ国が参戦した。
 (朝鮮戦争は当然「アメリカと戦った」ので、ガイドは「アメリカは更に他に15カ国引き込んだ。こんな大軍に朝鮮人民は勇敢に戦った。」を略して15カ国と言ったのだと判断します。)
・さらにこれに加えて、李承晩が指揮する南朝鮮かいらい軍も攻めてきた(韓国と北朝鮮はお互いを国家承認していないので、これは1国にはカウントせず)
・医療部隊ないし医療施設を国連軍に提供した5カ国はカウントしない
・北朝鮮軍は、北朝鮮と中国の2カ国の軍で戦った


という認識だと判断してよいかと思います。


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