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よくわかる北朝鮮旅行2016年5月 by 神谷奏六

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北朝鮮が朝鮮戦争で「勝利」と言うのはねつ造か?洗脳か?いや一理あるのか?(5)ガイドの説明を検証する

当然ですが、北朝鮮旅行に行った際に私たちにつく現地ガイドも朝鮮戦争について「勝利」と説明します。これはねつ造なのか?洗脳なのか?それとも一理あるのか?


今回はこの内容を検証します。


wikipediaによると、この「勝利」は、「停戦協定により、朝鮮半島の北半分において社会主義体制を勝ちとった」という意味だと書いてあります。

祖国解放戦争勝利記念館(wikipedia)


つまり「祖国を解放した、戦争勝利というできごとの記念館」ではなく、「祖国を解放した戦争であり、社会主義体制を勝ち取った戦争の記念館」という言い分でしょうか。

ジャーナリスト池上彰氏の著書「そうだったのか! 朝鮮半島 (そうだったのか! シリーズ)」によると、朝鮮戦争の前から政権をにぎっていた朝鮮労働党は朝鮮共産党をもともとの母体にしていますので、「社会主義を守りきった。」というのならわかるのですが、勝ち取ったというのは表現としておかしいように感じます。


さて、北朝鮮旅行ではこれが本当にそうなのか、というのがみどころでしたが、この「勝利」の意味は博物館の中では説明されていませんでした。


なので、ガイドに聞いてみました。
「博物館の中でも『停戦した』と解説したのに、なぜ『勝利』記念館なのですか?」と。

ガイドいわく、

(1)朝鮮戦争停戦時点で北朝鮮が確保していた領土は、開戦当初の領土と同じだった、つまり守り抜いたということ

(2)創設まもない軍である(朝鮮人民軍は1948年創設)にも関わらず、よくがんばったこと

(3)アメリカの司令官が停戦後に「朝鮮戦争は間違った戦争だった」と言ったこと

(4)あんなに威張っていた当時最強の米兵が、歴史上初めて停戦を申し込んだこと

・・・この4つを加味すると、政治的には「勝利」と言っていいでしょう、ということ、だそうです。

こちらも「戦勝の記念館」ではなく、「戦争を通じて、いろんな意味で勝利がもたらされた」という主張のようです。



順番に検証します。

ガイドの説明(1)朝鮮戦争停戦時点で北朝鮮が確保していた領土は、開戦当初の領土と同じだった、つまり守り抜いたということ

そうだったのか! 朝鮮半島 (そうだったのか! シリーズ)」によると、今では様々な証拠により、朝鮮戦争で最初に攻め入ったのは韓国ではなく北朝鮮であることが明らかになっています。

ところが、当然ですが(?)、北朝鮮の国民にはこれは知らされていません。

自身も脱北者である人権活動家パク・ヨンミ氏の著書「生きるための選択 ―少女は13歳のとき、脱北することを決意して川を渡った」によると、脱北して韓国に渡った後、北朝鮮で教わった様々なことが北朝鮮政府の洗脳教育であり、様々なことを勉強し直したが、唯一信じられなかったのは『朝鮮戦争を起こしたのは金日成』という話だという記載がありました。

金日成の目的は「朝鮮半島の武力統一」ですので、「朝鮮戦争停戦時点で北朝鮮が確保していた領土は、開戦当初の領土と同じだった、つまり守り抜いた」は金日成の戦争目的の達成には含まれません。

しかし、国民が考える目的が「アメリカの侵略から守ること」であれば、かつ「開戦当初の目的が達成されれば戦勝」という定義にのっとれば「朝鮮戦争停戦時点で北朝鮮が確保していた領土は、開戦当初の領土と同じだった、つまり守り抜いた」という事実を持って、国民にとって「戦勝」はウソではないということになります。



ガイドの説明(2)創設まもない軍である(朝鮮人民軍は1948年創設)にも関わらず、よくがんばったこと

「創設間もない軍ががんばったら戦勝」という定義はありません。

「創設間もない軍ががんばったら勝利」という定義もありません。


なので、このガイドの説明は的を得ていないと言えます。




ガイドの説明(3)アメリカの司令官が停戦後に「朝鮮戦争は間違った戦争だった」と言ったこと


これはガイドの説明が誤りです。

正しくは、アメリカ”国防総省の朝鮮戦争担当当局者”であるブラッドリーが”マッカーサー更迭後”に「中国と戦争することになる場合、間違った場所で間違った時期に行う戦争になるだろう」と言っています。

「俺たちアメリカは中国と戦争しない方がいいよ」と、司令官でもない人が言っただけなので、これは勝利とも敗戦とも関係ありません。

ガイドの説明がねつ造なのか、洗脳なのかはわかりませんが、祖国解放戦争勝利記念館のパネル展示にもし上記の説明があったとしたら、それはねつ造です。




ガイドの説明(4)あんなに威張っていた当時最強の米兵が、歴史上初めて停戦を申し込んだこと

(威張っていたかは知りませんが)アメリカが歴史上初めて停戦を申し込んだのは正しいです。

ベトナム戦争でアメリカが勝った際に、ベトナム兵が「アメリカに勝った」と言っていたのと似ていると思います。

北朝鮮の国民が言うとしたら「勝利に等しい停戦」か「勝利と言っていい価値のある引き分け」でしょうか。

また、威張っているアメリカに停戦を申し込ませるために戦争をしていたのではないので、「勝利」の線はあるかもしれませんが、「戦勝」ではありません。




まとめます。

ガイドの説明にあった「朝鮮戦争停戦時点で北朝鮮が確保していた領土は、開戦当初の領土と同じだった、つまり守り抜いた。だから勝利なんだ。」という理屈は、ガイド(を含む北朝鮮のほとんどの国民)が認識している戦争目的が「アメリカの侵略から守る」なので、「戦争目的を達成したら戦勝」理論では、これはガイドの言う話は一応、筋が通っています。(異論はあります。)

ただし、金日成の戦争目的は朝鮮半島の武力統一ですので「戦勝」ではありません。
なので、国営である「祖国解放戦争勝利記念館」のネーミングは、「戦勝の記念館」であれば「ねつ造」、「戦争を通じて、いろんな意味で勝利がもたらされた」という意味のネーミングなのであれば、悪いことはなく、ただのまぎらわしいネーミングです。



また、「あんなに威張っていた当時最強の米兵が、歴史上初めて停戦を申し込んだ。だから勝利なんだ。」という説明は、まあ勝利は言い過ぎでも「勝利に等しい停戦だ。」と言ってもよいと思いますので、ガイドの説明にも一応、筋が通っていると思います。

こちらも同様に「祖国解放戦争勝利記念館」というネーミングについては、「戦争を通じて、いろんな意味で勝利がもたらされた」という意味のネーミングなのであれば、悪いことはなく、ただのまぎらわしいネーミングです。


「創設まもない軍である(朝鮮人民軍は1948年創設)にも関わらず、よくがんばったから勝利だ。」はおかしな説明であり、「アメリカの司令官が停戦後に「朝鮮戦争は間違った戦争だった」と言ったから勝利だ。」はガイドの説明の誤りです。

結論、「祖国解放戦争勝利記念館」はまぎらわしいということです。「祈念館」ならいいですが。


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