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よくわかる北朝鮮旅行2016年5月 by 神谷奏六

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北朝鮮が朝鮮戦争で「勝利」と言うのはねつ造か?洗脳か?いや一理あるのか?(3)北朝鮮国民から見て目的を達成したか?

北朝鮮が朝鮮戦争に「勝利」したと言っている点について、学者などの間で有力説としてある「開戦当初の目的を達成したら戦勝」という定義にもとづいて、どうなのかを検証してみたいと思います。





開戦当初の北朝鮮側の朝鮮戦争の目的について、北朝鮮の政府発行の書籍「朝鮮通史(下)」には、以下のように記述があります。

以下、引用
アメリカ帝国主義とかいらい李承晩(イスンマン)一味は、祖国の自主的平和統一をはかる共和国政府の合理的な法案を拒否し、1950年6月25日、共和国北半部にたいする侵略戦争を起こした。

アメリカ帝国主義の指示のもと十余万のかいらい軍は日曜日未明、三十八度線の全域にわたって不意に侵攻を開始し、海州(ヘジュ)、金川(クムチョン)、鉄原(チョルウォン)その他の方向から三十八度線以北1〜2キロメートル地点まで侵入した。

(中略)

金日成主席はそこでつぎのように述べている。

「われわれは祖国の独立と民族の自由と栄誉を守るため断固として敵と戦うべきであります。

敵の野蛮な侵略戦争にたいし、正義の解放戦争をもってこたえなければなりません。

人民軍は敵の侵攻を粉砕し、即時断固たる反撃に転じて武力侵略者を掃滅しなければなりません。」

(中略)

アメリカ帝国主義とかいらい一味の侵攻に抗する朝鮮人民の戦いは、帝国主義の侵略から祖国の自由と独立、民族の自主権を守る反帝民族解放戦争であり、南朝鮮でアメリカ帝国主義とかいらい一味の反動支配体制を一掃し、人民に人間らしい生活をもたらすためのきびしい階級闘争であった。

またこの戦争は、アメリカ帝国主義を戦闘とする帝国主義連合勢力と対抗し、アジアと世界の平和と安全を守る正義の戦いであった。
以上、引用

これが北朝鮮国内で統一されている歴史見解で、現地ガイドが私たちにした説明もこれを前提にしていると考えてよさそうです。

まとめると、北朝鮮が国内に発表している説、及び北朝鮮国民が考える説では、北朝鮮にとっての朝鮮戦争の目的は、以下の大きく3つです。



<朝鮮戦争の目的(「朝鮮通史<下>」による)>
一.(帝国主義の侵略から)祖国の自由と独立、民族の自由、栄誉、民族の自主権を守るため

二.南朝鮮でアメリカ帝国主義とかいらい一味(李承晩とそのとりまき)の反動体制を一掃することで、人民に人間らしい生活をもたらす

三.帝国主義連合勢力と対抗し、アジアと世界の平和と安全を守る



それぞれ検証します。



一.(帝国主義の侵略から)祖国の自由と独立、民族の自由、栄誉、民族の自主権を守れたか?

ここで言う、「帝国主義」は、もうざっくりアメリカととらえてよいと思います。

朝鮮戦争を通じて、北朝鮮の国民はアメリカからの侵略から独立、民族の自主権を守ることができました。

祖国の自由と、民族の自由は建国時も今もないに等しいですが、0ではありません。

今回の論点は「北朝鮮の自由度が高いか?」ではなく、「(自由度の低さはおいておいて)もともとあった自由は守れたか?」ですので、その点で言うと、守れたことになります。


北朝鮮旅行に行ってよくわかりましたが、祖国解放戦争勝利記念館へ行っても、板門店へ行っても、ガイドと飲んで話をしていてもわかりますが、北朝鮮の国民はこの朝鮮戦争の停戦という結果を栄誉ある結末としてとらえています。

なので、栄誉も守られていると言えます。


この点、「目的は達成された」と言え、戦争は「成功」、「目的を達成したら戦勝」という考え方で言えば、なんと「戦勝」という判断になります。




二.南朝鮮でアメリカ帝国主義とかいらい一味(李承晩とそのとりまき)の反動体制を一掃することで、人民に人間らしい生活をもたらす

韓国では朝鮮戦争後も(北朝鮮と比べれば)だいぶアメリカ寄りの李承晩の独裁政治は続きました。

米軍も駐留していますし、国家として認められ、国交も正常化、アメリカ製品もガンガン輸入されています。

なので、この目的は達成されたとは言えないでしょう。

また、現代では(金日成の意図とは違って)アメリカ寄りの政権になった韓国の国民のほうがよっぽど人間らしい生活を送っています。

しかし、朝鮮戦争直後は(金日成が李承晩体制を一掃しようとしたせいで)韓国は焼け野原になり、多くの市民が殺されたり、離散家族が生まれたりしました。

結果的に、李承晩体制の一掃も、人間らしい生活も実現できなかったので、「目的は達成されなかった」つまり、戦争は「失敗」、「目的を達成されたら戦勝」の定義で見ると、「敗戦」という判断になります。




三.帝国主義連合勢力と対抗し、アジアと世界の平和と安全を守る

国士舘大学日本政教研究所非常勤講師であり、憲政史家の倉山満氏の著書「常識から疑え! 山川日本史 近現代史編 下 「研究者もどき」がつくる「教科書もどき」 (Knock the Knowing)」に、よるとアメリカが朝鮮戦争に突入する経緯について、以下のように記載があります。

以下、抜粋
そもそも、戦争の発端となったのはアメリカのアチソン国務長官による声明でした。

「アメリカは、アリューシャン列島〜日本列島〜沖縄〜フィリピン〜オーストラリアの防衛戦を守る」という宣言です(アチソン声明)。

要するに「ソ連を太平洋には出さないぞ」ということなのですが、アチソンが宣言したラインからは朝鮮半島が抜けています。

「最前線の韓国は守らない」と聞こえても仕方のないこの声明を受けて、スターリンは子飼いの金日成に進撃命令を出しました。

たちまち北朝鮮軍は「朝鮮半島南部を席巻し」ます。

ここでようやく朝鮮半島の戦略的な意味に気づいたのがマッカーサーです。

朝鮮半島が敵対することは、自分を殺そうとする敵が目の前で武器を構えていることにほかならないと身を持って知ったのです。

後にアメリカ議会で「日本が行った戦争は自衛のための闘いだった」と証言しているほどです。
以上、抜粋

金日成による攻撃がきっかけで、アメリカが攻め込んだことは明らかです。

そして朝鮮戦争後、アメリカはアジア諸国にアメリカ寄りの指導者を送り込み、ベトナム戦争、カンボジアのポルポト大虐殺などへとつながっていきます。

「帝国主義連合勢力と対抗し、アジアと世界の平和と安全を守る」どころか、帝国主義国の拡大を招き、アジアと世界に危機をもたらすきっかけとなったという意味では、「目的は達成されなかった」つまり、戦争は「失敗」、「目的を達成したら戦勝」の視点では、「敗戦」という判断になります。




さて、この倉山満氏が著書で解説しているように、世界では朝鮮戦争は北朝鮮から仕掛けたことについては明白ですが、北朝鮮の言い分である「アメリカと南朝鮮の側から仕掛けた」というのは国内のプロパガンダだけでなく、いっときは世界の通説でもありました。

朝鮮戦争をどちらが先に仕掛けたのかについては、ジャーナリスト池上彰氏の著書「そうだったのか! 朝鮮半島 (そうだったのか! シリーズ)」によると、

・開戦当初、いずれも「先に相手が仕掛けた」と主張して情報が混乱していたが、今は北朝鮮側から仕掛けたことが各国政府の情報公開資料をもとに明らかになっている

・当時、日本では金日成の「先に韓国が攻撃して来たから反撃する」という金日成の声明を真に受けて「南が仕掛けた」という人も多かった。真相がわかったのはだいぶ経ってからである

・現場で戦っている北朝鮮の戦士自身に「反撃」であることを納得させるために、朝鮮労働党では「平和愛好国家が侵略者の侵攻を予見し、この攻撃に先立って攻撃することもある」とか、「正義の戦争は必ずしも自国領土内でおこなわれる必要はないし、強奪者を撃滅するためには本拠地まで攻め入ることも必要」とか、「それらは正義の戦争だ」のように国内に「反撃」であることを強調していた

というように証拠が出て来ているそうです。


まとめると、朝鮮戦争の多くの目的は達成されていないが、唯一(帝国主義の侵略から)祖国の自由と独立、民族の自由、栄誉、民族の自主権を守る」という目的は達成されているため、その点においてのみ、北朝鮮にとって朝鮮戦争は「成功」、(あくまで「その点においてのみ」ですが)学会などの有力な考え方によると「目的を達成したので戦勝」です。

北朝鮮のガイドも「朝鮮戦争の目的」についてはこのように考えていますので、「自主権を守るという目的は達成したので戦争勝利なんだ!」という言い分の根拠は残ることになります。


ただし、ここで言う「目的」は北朝鮮政府によって語り継がれて来た歴史認識であり、当時の金日成の真の狙いとは異なるという点について、「戦勝とはいえない」という説は残ることになります。

金日成にとって、それから北朝鮮以外の国にとって、朝鮮戦争は「成功」(考え方によっては戦勝)と言えるのか?については、追ってまとめていきたいと思います。



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